松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

『大学のIR Q&A』を読了

遅ればせながら、標記の本を読了しました。

教員免許業務のQ&Aと同じく、非常に平易にIRのことがQA方式で学べるようになっていました。中でも助かったのは、第3部についている「IR実践のための資料」です。ここには、「アンケート調査票の作り方」「サンプル調査票」「効果的なグラフの選び方(10種類のグラフとともに)」「代表的な定期的調査」等が載っていて、どうぞ明日から使ってくださいという仕様になっています。

巻末の参考文献は見ただけでクラクラしました。大学院の研究計画書をIRで出しましたので、それなりに読んだものもあるはずなのですが、このように14ページにわたって参考文献を示されると、この量を読めるだろうか…という悲しい気持ちになります。

ところで、このQ&Aシリーズには必ず息抜きに「コラム」を載せているようなのですが、その中で最も印象に残った、川那部隆司先生(立命館大学)のものを以下に取り上げます。

(以下引用。赤字は松宮)

コラム⑧理論と実践の橋渡し

 IRとは「機関の計画策定、政策形成、意思決定を支援するための情報を提供する目的で、高等教育機関の内部で行われる調査研究(リサーチ)」であり、実践志向の強い組織的な調査分析活動とされています(Saupe、1990)。この定義の通り、IRはデータを収集して実態を把握するだけ、問題の原因を特定するだけでは完結せず、IRで得られた知見は、具体的な形で大学運営や教学マネジメントに実際に活用される必要があります。

 こうした実践志向の強さは頻繁に強調されますが、IRを進めるに当たっては、基礎的な研究の知見に基づくモデルや理論を参照することが欠かせません。たとえば、授業改善を目的として学生の実態を把握しようとする際には、教授学習理論や青年期の発達に関するモデルに基づき、どのようなデータを収集し、それをどのように分析するか、さらには、得られた結果をどのように解釈するかを決定していく必要があります。基礎的な研究から見出された理論やモデルを無視して調査や分析を進めてしまうと、それこそ実践的に価値のない「リサーチ」になってしまいます。

 それでは、どのような理論やモデルを参照すればよいのでしょうか。日本でおこなわれた研究を参照したいところですが、IRに関連する基礎的な研究はまだあまり蓄積されていないのが現状です。IRが進んでいるアメリカやヨーロッパ、オーストラリアのものを参照することもできますが、文化や言語、社会構造などの違いは大きく、簡単には利用できないことも多いでしょう。こうしたことを考えると、現在、日本の高等教育機関においてIRを担っている人々は、「実践的であり、かつ基礎的なリサーチ」を進めていく必要があります。

 しかし、そもそも理論と実践とは対立するものなのでしょうか。心理学者のクルト・レヴィンは「すぐれた理論ほど実践的なものはない」と述べています。しっかりとした基礎的研究によって提出された理論であれば、それはおのずと実践的な価値をもつことになるのです。IRについても、実践的な側面をあまりに強調し、場当たり的な「リサーチ」を進めてしまうのではなく、現実を見据えつつ、しっかりとした基礎的研究を進めていくことが、より実践的価値の高い取組へとつながっていくのかもしれません

(引用終)

「実践的であり、かつ基礎的なリサーチ」を進めていく必要がある、という言葉大変胸に響きました。個人としても、実践的であるかどうか(現実に使えるかどうか)は常に気にしていますが、基礎的かどうかという視点は重視できているとは言いがたいです。大きなジャンプアップを望むのではなくて、地に足をつけて一歩一歩、ということを自覚したいと思います。

 

大学のIR Q&A (高等教育シリーズ)

大学のIR Q&A (高等教育シリーズ)