松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

【ネタばれ無し】朝井リョウという奇才ー『どうしても生きてる』(幻冬舎)を読了―

誰かからサインをもらうということをしたことがなかったのだが,これまでの人生で唯一それをしたのが朝井リョウであった。
2013年,今はなきリブロ池袋店で行われたサイン会で,「『もう一度生まれる』がすごくよかったです」というと,「そうですか,ありがとうございます」と丁寧に答えていただいたことを覚えている。
『もう一度生まれる』は,大学生を中心とした若者の葛藤を描いた物語で,なんとなく買った作品であったが,「これはとんでもないものを読んでしまった」という読後感があった。
こんな作品を書くのは誰なんだと思って著者欄を見ると,自分より年下で驚いたものだった。しかも,作家専業ではなく,ふつうにの就職活動を経て,会社員もしているらしい。これはとんでもない作家が出てきたと感じた。
前年に直木賞を受賞したばかりの作家と自分を比較するような論理もおかしいが,そのときはそう思ったのだ。同時に,自分がもう何者でもないことを突きつけられた感もあった。
だがしかし,そのときサインをいただいた作品『世界地図の下書き』(集英社)は,正直にいって期待外れだった。
児童養護施設で暮らす子どもたちに焦点をあてたその作品は,もちろん多くの取材には裏打ちされていたのだろうが,持ち味であるリアリティに欠けた。
そのような見方は意地悪だったかもしれない。自分の身の回りの,経験した生活の範囲の延長でしかその筆を生かせないことをある種のコンプレックスに思い,超えようとした作品であったことを自分は知っていたので。
今回拝読した『どうしても生きてる』は,そのタイトルから見ても,明らかに『もう一度生まれる』を意識した作品であった。
30歳を超えてくると,生の字の意味が変わってくる。「生まれる」ようなみずみずしさはなく,「生きてる」という現在地の苦しみにさいなまれる。
そのリアリティに再び触れることのできた作品であった。

2019年9月に読了した小説,評論,エッセイ,漫画

アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した

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わたしは英国王に給仕した (河出文庫)

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「残業しないチーム」と「残業だらけチーム」の習慣 (Asuka business & language book)

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日本の地方政府-1700自治体の実態と課題 (中公新書)

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若い人から学ぶ

さきほど,大学職員の大先輩から「神戸教育短大の研修資料を拝見したい」「勉強したい」という連絡を頂戴しました。
大変ありがたく思うと同時に,関連して日ごろ自身が大切にしていることを書き留めておきたいと思います。
それは,「若い人から学ぶ」ということです。このように考えることになったきっかけは,自分の体験にあります。

若さという下駄

体験の第1は,まさに自分自身が本当に若い頃(23歳),大学職員の集まり(職能団体的なもの)である大学行政管理学会の定期総会に職場の支援を受けて参加した際,「たぶんこの中で一番若い」「若いのにすごい」と色々な方に言われたことです。
今でこそ大学行政管理学会も若い方が増えましたが,2000年代後半はまだまだ少なかったのです。
というのは,この団体そのものが管理職しか加入できない,という価値観からスタートしていて,それを途中で転換したという歴史をもっているからです。
当時,「若さというものは,それだけでこんなにも評価されるのか」と感じた記憶があります。
同時に,次のようなことも思いました。「これは下駄だな」と。
若く,何の実績もない私が,その場にいるとただ若いというだけで評価される。これをそのまま受け取って気持ちよくなってはいけない,と感じました。
業界として平均年齢が高いために,30代までは「若手」といって許されてしまうであろうこと,40代に入って何の実績もなければ,若さという下駄が突然外され,奈落の底に落ちるかもしれないというイメージを簡単に描くことができました。
以来,実績を他者から評価される際,年齢という条件を大きく割り引くクセがつきました。
今思うと,上記は半分は大学職員の業界が基本的に年功序列という,年齢という属性を良くも悪くも過大に評価している問題にもつながります。
「若いのにダメだ」と「若いのにすごい」が意味するところは,結局のところ同じなのです。
相手が若ければ,ただ若いというだけで先輩面をし,マウントをとることができる。その人がもっている能力やポテンシャルに関係なく。

若く,実績もない私から貪欲に何かを得ようとしてきた人たち

ところが,働き始めてから何年かして,若く,実績のない私から貪欲に何かを得ようとしてきた他の大学の職員と出会いました。これが体験の第2です。
この方は実は特定の個人で,年齢的には,私よりも10歳上の方です。
マウントをとろうと思えば容易にとれますし,偉そうに振る舞うこともできたはずです。
しかしながら,そのようなことは全くなく,むしろ年齢に関係なく,私から何かを得よう,学びとろうという強烈な意欲を感じました。
その後,機会に恵まれ,そうした方々と幾人か出会いました。
これらの方々の特徴は,相手の属性を見ず,外形や形式を気にせず,本題を議論したがるという点にあります。
たとえば,私が年齢が上の方に相対するには,一般的には失礼と見える振る舞いや態度をとったとしても,彼らは気にしません。なぜなら,彼らにとってそのようなことはどうでもいいことだからです。
そしてこう感じました。「怖い,勝てない」。
良くも悪くも年齢でマウントをとられる場合,それは属性で個人の大半を評価してしまっているということですから,率直にいえば大したことない人だと感じざるをえませんでした。
しかしながら,そういった空気感が大勢を占める業界であるにもかかわらず,なぜか若く,何の実績もない私からも貪欲に学ぼうとする態度。これは恐ろしい,なんと優秀で知的なのかと,まさに人物とはこういうことか,と思ったのです。
自分もいつか,周囲の空気感とは独立した,謙虚な情熱を備えねばならないと考えました。

若い人に使ってもらえるかどうか

人はいつか年をとります。
このとき,若い人に使ってもらえる,とか,せめて若い人にいやがられない,ということは大切だなと思います。
ただ単に長く生きている,長く働いていて多少の業務知識がある,それだけのことで偉そうに過ごしていると,年功序列の業界では基本的に気持ちよく過ごせますが(それが問題でもあるのですが),長期的には悲しい人生になります。
自分の経験からもいえることですが,年功序列の業界に身を置く若い人は,相当シビアにただ長く生きているだけの人を評価し,同時にその事実を積極的には教えてはくれません。
それゆえ,ある面では不可避なことであり,自分自身は知る由もないところで嫌われてしまうことも,受け入れねばならないという難しさはあります。
私も10年以上同じ仕事をしてきましたが,もう頭のキレ,判断のスピードや正確さ,そのようなものにもう自信はない状態です。
ですので,より若い方に,得てきた資源を一切惜しむことなく還元すること,本当はやりたいけれどもできないことを,自分を隠れ蓑にしてしてもらうことなどを気にしています。
そして,そのおこぼれに預かり,これからの余生を送りたいと希望しています。

御礼:神戸教育短期大学様よりFD・SD研修会での講師をご用命いただきました

お忙しい中参加いただいた教職員のみなさまに感謝申し上げます。
「教員と職員の協働について(前半部:SD研修)」「学生の主体的学びを促す方法について(後半部:FD研修)」と難しい2つのテーマで,逆に私の方が勉強させていただきました。
(なお,資料は個別の大学の研修用ですので共有は避けようと思います。見たいという方がおいででしたら,個別にご連絡いただければ幸いです)
www.instagram.com

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ご案内:第2回大学職員のための(I)Rゼミナール〜 jamovi編 〜(9月28日(土)開催:博多 リファレンス駅東ビル)

よろしければどうぞ。
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