松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

教育実習はどのように単位認定されるのか?

よく質問されるので,自分のためにも整理しておきます。
この質問は,大学関係者だけではなく,学生がお世話になっている実習校からもよく受けます。
台風が来たり,風邪で休んでしまったときに,法令と照合してどうすればよいのかという話です。
以下は,全て中高免を例として考えます。
そもそも教育実習については,高一種免で2週間,中一種免で3週間,双方を取得する場合は中一種免にあわせて3週間参加する,と一般に思われています。
しかし,実をいうとこの考え方は正確ではありません。
まず,大学設置基準において,「実習」は1単位あたり30~45時間とされています。その上で,教育実習については,その歴史的経緯から,

・4単位実習 → 1単位30時間
・2単位実習 → 1単位40時間

として,それぞれ算出することとなっています。また,教育職員免許法施行規則第4条および第5条では,教育実習の単位は,

・中一種免 → 5単位
・高一種免 → 3単位

として,それぞれ定められています。さらに,このうちの1単位は,教育実習事前・事後指導です。
このことと,前述の単位時間の計算を兼ね合わせると,

・中一種免取得のための実習 → 4単位×30時間 → 120時間
・高一種免取得のための実習 → 2単位×40時間 →  80時間

ということになります。すなわち,1日8時間労働と考えれば,

・中一種免取得のための実習 → 120時間/8=15日(平日換算で3週間)
・高一種免取得のための実習 →  80時間/8=10日(平日換算で2週間)

ということになります。
高一種免で2週間,中一種免で3週間というのは,こういった計算から導出されたものですから,正確には時間数が全てということになります。

笠京子(2017)『官僚制改革の条件:新制度論による日英比較』(勁草書房)を読了

新制度論の理解を深めるために,標記の本を読了した。
日英の官僚制改革の比較分析を行っており,方法論として新制度論を援用している。
本書の冒頭で提示されている新制度論の分析枠組みは,Schmidt(2010)による合理的選択制度論,歴史的制度論,社会学的制度論,構成主義制度論の4つである。
これら4つの新制度論について,
 合理的選択制度論:取引費用仮説,PSBs仮説
 歴史的制度論:政治行政制度仮説
 社会学的制度論:正統化仮説
 構成主義制度論:アイデア競合仮説
の5つの仮説を設定した上で比較分析を行い,分析結果から4つの新制度論の位置づけの修正をする。
具体的には次のとおりである(p.277)。

新制度論という枠組みのなかで,十分に説得力のある議論ができるのは,合理的選択制度論と歴史的制度論である。社会学的制度論はやや説得力に欠け,説明できる範囲も狭い。構成主義制度論は,これら3つの新制度論をすべて含んでいるが,説得と熟議を可能にする制度配置を検証する手立てとしてはなお不十分である。

筆者が,このように述べる理由は,その前段に示されている(p.271,赤字は松宮)。

 このように日英の官僚制改革は正当化仮説によってある程度整合的に説明することができる。日英ともに,官僚制がかつて保持していた社会的文化的正統性は大きく棄損し,官僚制を改革することに対する社会的文化的正統性が高まった。政治家は,自らの正統性を誇示するために,官僚制改革の必要性を謳いあげる必要があったことになる。しかし,社会全体あるいは国際社会全体を制度とみなすこの仮説に個別の政策過程を説明する力はなく,あくまで官僚制改革をアジェンダとして設定すること,その改革に一定の方向性をもたせることにとどまるものと考えられる。

すなわち,社会学的制度論の説明力が一部に留まるとし,その理由を各国(あるいは個々の制度)の文脈を踏まえた改革として補足できないことに求めているのである。
本書の対象はあくまでも官僚制改革の日英比較研究という範囲ではあるが,設定した範囲で社会学的制度論が援用が可能かどうか,ひょっとして他の制度論の方がふさわしいのではないかという発想を自身にもたらしてくれた。

官僚制改革の条件: 新制度論による日英比較

官僚制改革の条件: 新制度論による日英比較

2月2日(金)RIHE第8回公開研究会『「可視化」「数量化」される大学を再考する:東洋経済新報社『大学四季報』を活用した大学ガバナンス・財務経営分析の試み/薬学教育改革以後の薬学部における機関別アウトカムに関する考察』

もしよろしければ,どうぞ。

以下のとおり公開研究会を開催いたしますので、ご案内いたします。

■日時
平成30年2月2日(金)14:00~17:00

■場所
RIHE授業研究開発室
■テーマ
「可視化」「数量化」される大学を再考する:東洋経済新報社『大学四季報』を活用した大学ガバナンス・財務経営分析の試み/薬学教育改革以後の薬学部における機関別アウトカムに関する考察

■内容
1.開会挨拶・趣旨説明:渡邉聡(広島大学副学長・大学経営企画室長・高等教育研究開発センター教授)
2.東洋経済新報社様による『大学四季報』他大学関連データのご説明
 宇都宮徹東洋経済新報社 編集局・就職四季報プラスワン編集長)
 田中久貴(東洋経済新報社 データ事業局・データベース営業部)
3.東洋経済新報社データの活用事例
 村澤昌崇(広島大学高等教育研究開発センター)
 松宮慎治(広島大学大学院教育学研究科)
 中尾 走(広島大学高等教育研究開発センター)
4.薬学教育改革以後の薬学部における機関別アウトカムに関する考察
速水幹也(椙山女学園大学

■概要

 近年,高等教育を取り巻く環境変化に伴い、大学の企業的な経営や成果主義が浸透し、大学のアクティビティを「可視化」する動きが盛んになっていることは皆様もご存じの通りです。特に、世界的に大きなインパクトを与えている「大学ランキング」のような数値化と序列化による可視化は、その典型例と言えるでしょう。このような現状は、大学の規模や範囲、歴史や威信に関する情報だけでなく、資金や業績等多角的に「可視化」「数値化」される大学の意味を、改めて考える必要性が増していることをも意味しているとも言えそうです。
 そこで本研究会では,近年では『週刊東洋経済』の臨時増刊号「本当に強い大学」の発行でも知られる、東洋経済新報社のご担当者をお招きし、同号で用いられている「大学四季報データ」についてその概要をご説明いただきます。その上で,当センターのスタッフと院生により、過去も含めた同データの分析事例をご紹介します。
 このように、民間の手による高等教育の可視化が進む中、高等教育に関する研究領域では、これまでに一定の計量分析の蓄積と成果があります。今回の研究会では、気鋭の若手研究者である椙山女学園大学の速水幹也先生にもお越し頂き、最近の研究をご披露いただきます。
 今回のご発表では、①薬学教育改革以後の薬学部の状況を,学部数,入学定員,薬剤師国家試験合格率,標準年限内卒業率,中退率等の指標を中心に(再)整理すること,②薬学部における機関別のアウトカムの規定要因に関する分析をご披露いただきます。①については薬学教育改革後10年を迎えたことを踏まえた基礎的な整理を中心とし,②については先行研究を土台としつつ,より精緻なモデルの適用を試みていただきます。
 以上のように、今回の研究会では、それぞれの関心・研究課題に関する議論を深めつつ、共通課題として、改めて「可視化される大学」についての議論を行うとともに、用いられるデータのあり方や今後の整備・活用の仕方も触れていきたいと考えております。

申し込みフォームはこちらから。
rihe.hiroshima-u.ac.jp

山本文緒(2016)『なぎさ』を読了した

標記の本を読了した。
家族とその周囲の人が少しずつ秘密を持ちながら,上手に展開される。
舞台は神奈川県の横須賀。気持ちの良い情景が思い浮かぶ。行ったことないけど。
[asin:B01H13QE8K:detail]

【ネタバレなし】ニューイヤーズ・イブ(字幕版)を鑑賞

年明けくらいに鑑賞した。
本当は,年明け前に見るとよかったかもしれない。癒された。
あほみたいな感想だが,ニューヨークっていいな~と思った。★★★★☆

ニューイヤーズ・イブ [DVD]

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佐藤航陽(2017)『お金2.0:新しい経済のルールと生き方 』(幻冬舎)を読了

話題作を読了した。
本書で述べられていることは,ぼくなりに解釈すると,
(1)既存の経済システムに新しいサブシステムが登場しつつある
(2)新旧の経済システムには,共通点がある
(3)新しいサブシステムは,既存の経済システムと併存可能である
の3点である。
これらを踏まえて,お金に惑わされる資本主義から,お金がいくつかのうちの選択肢の一つになる「価値主義」への転換を謳っている。

人生の意義の話も踏まえて、価値主義の世界ではどんな働き方や生き方がスタンダードになっていくでしょうか。答えは非常にシンプルで「好きなことに熱中している人ほどうまく行きやすい」世の中に変わっていきます。

不景気しか知らない自分の世代にとって,たぶん「好きなことで生きていく」というのは,愚か者の象徴だった。
たとえば,バブルの頃のフリーターの話は周りの大人から揶揄され,「安定した仕事につかねばならない」という教育を受けてきた。
しかし,このような判断が,少なくとも時代の流れすれば誤りであったと気づいたことは,前に述べた。
shinnji28.hatenablog.com
こうした考え方の変化に対する一つの答えが,上記の一文であろう。
端的に,「熱中している人ほどうまく行きやすい」のである。熱中していれば,自動的に価値が溜まっていく。
そしてそういう人にはお金が集まりやすい。ないし,集めようと思えばいつでも集められるようになっていることを実感している。

以下に,いくつか印象に残った箇所を記す。

内面的な価値が経済を動かすようになると、そこでの成功ルールはこれまでとは全く違うものになり得ます。金銭的なリターンを第一に考えるほど儲からなくなり、何かに熱中している人ほど結果的に利益を得られるようになります。つまり、これまでと真逆のことが起こります。

独自性や個性という観点からすると、例えば世間では給与が高くて人気のある企業に勤めていること自体に、価値はないという状況も普通に起こります。  なぜなら、大手商社マンの部長は既存の経済の中では人材価値が高いと思われがちですが、その人の価値はその企業が定めた「肩書き」に依存しているため代替可能です。  退職した場合はその人の価値は次の「部長」に受け継がれるのであって、その人の資産にはなりません。仕事を通して独自のスキルや経験などを身につけていない限りは自分の「価値」の向上にはなりません。

価値主義の世界では就職や転職に対する考え方も大きく変わってきます。ざっくり言ってしまうと、この先は「自分の価値を高めておけば何とでもなる」世界が実現しつつあるからです。

たくさんのお金を動かしている人ほどお金が好きな拝金主義者や守銭奴のような印象を持っている人がいますが、実際は全くの逆です。よりたくさんのお金や経済を動かしている人ほど、お金を紙やハサミやパソコンと同様に「道具」として見ています。そこに何の感情もくっつけていません。純粋に便利な道具という認識を持っているからこそ、それを扱う時も心は揺れませんし、冷静に判断をし続けることができます。  一方で、お金がうまく扱えず困っている人ほど、お金に特別な感情を抱いていることが多いです。私もそうでした。それがないことによって起きる困窮や不安から、お金に感情をくっつけてしまい、道具以上の意味を感じてしまいがちです。お金や経済を扱うためには、お金と感情を切り離して1つの「現象」として見つめ直すことが近道です。

一方,本書には大学で働く人間として気になることもある。

テストで100点を取ろうが、学界の権威になろうが、実社会で実際に再現して活用できなければそれは対象の「表面」を理解したに過ぎません。現実のビジネスにおいて使いこなせるようになって初めて理解したことになると考えています。

上記は,新たに登場したシステムと既存のシステムとの整合を説明する際のリード文のように用いられていて,同じ趣旨の言葉がいくつかの箇所に存在する。
言いたいことはわかるが,理論と実践の境目はこのように明確に切り分けできない,曖昧なものだと思うので,ことさらに知の体系を揶揄するようなことを記す必要はなかろうという気がする。

お金2.0 新しい経済のルールと生き方 (NewsPicks Book)

お金2.0 新しい経済のルールと生き方 (NewsPicks Book)

久米郁男(2013)『原因を推論する:政治分析方法論のすゝめ』(有斐閣)を読了

標記の本を読了した。
本書では政治学を素材に因果推論の基礎基本が解説されているが,政治学に全く関係のない分野の人が読んでも勉強になるよう設計されている。
とりわけ,

第4章 推論としての記述
第5章 共変関係を探る:違いを知るとはどういうことか
第6章 原因の時間的先行:因果関係の向きを問う
第7章 他の変数の統制:それは本当の原因ですか?
第8章 分析の単位、選択のバイアス,観察のユニバース

このあたりの章は,何度でも読み直したい。
折々に挿入される8つのコラムも含めて,平易であり,具体的であり,もっと早く読むべきであったと後悔している。

原因を推論する -- 政治分析方法論のすゝめ

原因を推論する -- 政治分析方法論のすゝめ